Chick Corea / Return to Forever

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ジャズ・ミュージシャンの中には、時代ごとにスタイルを変化させながらも常にシーンの最前線に立ち続けるタイプが存在するのだが、本日取り上げるチック・コリアもまさにその代表格である。
チック・コリアがソロ名義で発表し、実質ここから「リターン・トゥ・フォーエヴァー」というアルバムタイトルにもなったバンドを立ち上げた1作目で1972年発表。

4歳からピアノを習い始め、64年頃にはハービー・マンやブルー・ミッチェルとの共演で頭角を現し66年にデビューする。

その後、68年にはマイルス・デイヴィスのグループに加入し活動。

この時の前任キーボーディストがハービー・ハンコックであり、チックはその後釜となった。

有名なエピソードとしてエレクトリック・ピアノ(フェンダーのローズ・ピアノ)の触れるきっかけはそのマイルスだという。

「オレが強引に弾かせた。慣れるまでは、楽器を指定されたのが気に入らなかったようだが、やがて気に入って、いつのまにかエレクトリック・ピアノの第一人者になっちまいやがった」

絶対的ボスであるマイルスに言われたら断るわけにはいかなかったであろう、当初はこの楽器を好ましく思っていなかったチックだが、何がきっかけになるかは分からないものだ。

マイルスのバンドにおいてエレクトリック・ジャズの洗礼を受けていたコリアだが、本作ではその流れを汲みつつも、よりメロディアスで親しみやすい方向へと舵を切っている。言い換えれば、後のフュージョンやAOR的感覚にも通じる「洗練された聴きやすさ」がここで芽生えているのである。

ローズ=チック・コリアと言っても過言ではないほどのトレード・マーク。

Contents

聴きどころ

まず特筆すべきはサウンドの質感。エレクトリック・ピアノを中心に据えながらも、全体は非常に柔らかく、どこか南国的な空気感を漂わせている。この時点で既に、いわゆるジャズの持つ緊張感や難解さとは一線を画しており、「心地良さ」を重視した音作りが徹底されているのが分かる。

メンバーも興味深い。フローラ・プリムの透明感あるヴォーカル、ジョー・ファレルのフルート/サックス、スタンリー・クラークのベース、そしてアイアート・モレイラのパーカッション。いずれも単なるバックに留まらず、各々が楽曲の世界観を構築する重要なピースとして機能している。

ここで重要なのは、ヴォーカルと演奏のバランスである。フローラ・プリムの声は決して前に出過ぎることなく、あくまでサウンドの一部として溶け込んでいる。一方で演奏陣も自己主張をし過ぎることなく、楽曲全体の空気感を壊さない範囲で個性を発揮している。この“調和”こそが本作の最大の魅力と言っていい。

そうした特徴が最も顕著に表れているのがオープニングの①Return to Forever。幻想的なエレクトリック・ピアノのイントロから始まり、徐々に広がっていくサウンドスケープはまさに圧巻の一言。続く②Crystal Silenceでは一転して静謐な世界観が提示され、コリアの作曲家としての側面が際立つ。

中でも白眉は⑥La Fiesta。スペイン的なモチーフを取り入れたリズムと、躍動感あふれる展開が印象的で、ライブでも定番となる理由がよく分かる1曲である。リズム隊の緻密な絡みと即興性の高さは、単なる“聴きやすさ”に留まらないジャズとしての深みをしっかりと担保している。

アルバム全体を通して感じられるのは、「美しさ」と「開放感」である。難解な理論や技巧に寄りかかることなく、あくまでリスナーの感覚に訴えかけるサウンドは、ジャズに馴染みのないリスナーにも十分訴求力を持つだろう。

一方で、いわゆるハードバップ的な緊張感や、スリリングなインタープレイを求めるリスナーにとってはやや物足りなさを感じる可能性もある。あくまで本作は“攻め”というより“広がり”に重きを置いた作品だからだ。

とはいえ、この作品が後のフュージョン・シーン、さらには洗練されたポップスへと繋がる重要な一歩であったことは疑いようがない。ジャズという枠組みを保ちながら、より多くのリスナーへと開かれたサウンドを提示した意義は大きい。

もし「ジャズとAORの中間にあるような、心地良い音楽」を探しているのであれば、本作は間違いなく有力な選択肢となるだろう。迷ったらまずはここから、そう言い切れる1枚である。

 

88点

 

データ

1972年:ドイツ(ECM Records – ECM 1022 ST)

プロデューサー:マンフレート・アイヒャー

1. Return To Forever
2. Crystal Silence
3. What Game Shall We Play Today
4. Sometime Ago – La Fiesta

 

作編曲家、ベーシストのサガワトモユキのソロ・プロジェクトVOL DE NUIT関連ページはこちらからどうぞ。60’Sアメリカン・ポップス、フレンチ・ポップス、AOR、MOR、シティ・ポップス、ソフト・ロックファンへ贈る!!

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