ミュージシャンの中には、一度確立したスタイルを大きく変えることなく、それを時代ごとにアップデートしながら活動を続けるタイプがいるのだが、本日ご紹介するナイジェル・オルソンもそんなアーティストのひとりである。
一般的にはエルトン・ジョンのドラマーとして知られる彼だが、実はシンガーとしても非常に魅力的な才能を持っており、70年代からコンスタントにソロ作品を発表している。
本作『Changing Tides』は、そうした彼のキャリアの中でも比較的AOR色の強い作品として知られている1枚である。
サウンドについて
まず印象的なのは、アルバム全体を包み込む爽やかな空気感だろう。
80年代初頭という時代背景もあって、サウンドは非常に洗練されている。シンセサイザーやエレクトリック・ピアノを効果的に用いながらも、決して機械的にならず、あくまで楽曲を引き立てるためのアレンジとして機能している。
そのためAORファンが好む「都会的でありながら温かみもある」というサウンドに仕上がっているのである。
また、オルソンのヴォーカルも本作の大きな魅力のひとつ。
圧倒的な声量や個性で押し切るタイプではないのだが、その分どの曲にも自然に溶け込み、親しみやすさを感じさせる。派手なフェイクやソウルフルな歌唱で聴かせるのではなく、あくまで楽曲本位で歌う姿勢は好感が持てる。
ここで重要なのが、歌と演奏のバランスである。
本作ではヴォーカルが主役でありながら、バックの演奏陣も決して脇役にはなっていない。ギター、キーボード、リズム隊がそれぞれ適度に存在感を発揮しながらも歌を邪魔しない。
この辺りのまとまりの良さは、長年バンド・ミュージシャンとして活動してきたオルソンならではと言えるだろう。
楽曲面ではミディアム・テンポ中心の構成で、アルバム全体に統一感がある。
いわゆるロック的な激しさやドラマチックな展開よりも、良質なメロディを丁寧なアレンジで聴かせる方向性が強い。
そのため一聴して強烈なインパクトを残すタイプの作品ではないが、繰り返し聴くことで徐々に魅力が伝わってくる。
個人的には、本作の魅力は派手なヒット曲よりもアルバム全体の流れにあると思う。
どの曲も一定以上のクオリティを維持しており、飛ばしたくなるような楽曲がほとんど見当たらない。派手なキラーチューンで引っ張るのではなく、アルバム1枚としての完成度で勝負しているのである。
一方で、刺激の強いロックやフュージョン、あるいはドラマチックなAOR作品を好む方には少々大人しく感じられるかもしれない。
イングランド・ダン&ジョン・フォード・コリーの③Only A Matter Of Time、AIRPLAYの⑦Should Carry Onやケリー・チェイター、ロビー・パットンの共作⑨If This Is Love等AORファンは注目の楽曲も収録されており、聴きどころも多い。
ドラマーのソロ作品という先入観を持たずに聴けば、その完成度の高さに驚かされることだろう。
派手さは無い。しかし楽曲、演奏、アレンジの全てが高いレベルでまとまっている。
そんな本作は、王道AORの名盤とまでは言わないまでも、その周辺に位置する隠れた良作として十分に評価されるべき1枚である。
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