「王道、正統派」そんな言葉がピッタリのシンガー・ソングライター、ゲイリー・ポートノイ。
今となっては、なかなかそういった曲を書けるライターが減ってしまった中、貴重な存在である。
彼の名は一般的には無名だし、AORというジャンルの中においても決して有名ではない。
しかし、ニック・デカロのプロデュース作品でブラジルのポップス・シンガー、ロベルト・カルロスやエンゲルベルト・フンパーディンクなど、それぞれがゲイリーの曲をカバーしている事や日本では以前長野県知事を務められた田中康夫氏が80年に発表した小説、「なんとなくクリスタル」の映画において使用された事で反応した方もいるだろう。
余談だが、この「なんとなくクリスタル」(略してなんクリ)は100万部を超えるヒット作で、当時のAOR人気と共にブームになった作品である。
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サウンドについて
このアルバム最大の特徴は全部の楽器がバランスよく出ているような所謂バンドサウンドではなく、ヴォーカル兼ピアノのゲイリー本人に完全にスポットが当たっている所である。
それは何も音量という音の大きさではなく、アレンジ自体がそのようになされているのである。
途中、適度にロックっぽいディストーション(歪み)を効かせたギターが絡んでくるものの、終始ピアノ、エレピと歌が前に出ている。
これはミスターAORのボビー・コールドウェル、ボズ・スキャッグスといった同じ正統派ソロ・シンガーに見当たらない点で、両者とも名が通ったメンバーを起用しているという事も少なからず関係しているとは思うが、ミックスやアレンジにバンドが引き立つようなアイディアが随所に盛り込まれている。
対してゲイリーの方はと言うとバック・メンバーは決して有名ではないものの(とはいえ当然下手ではない)、ボビーやボズよりもシンプルで、もっと素朴なサウンドなのである。
これは得てして退屈な印象を与えてしまいがち・・・そうでないにしてもAORとは言い切れないSSWの曲になってしまう事が往々にしてある。
ところが、やはり楽曲の良さと必要以上に前に出てこないバックの演奏(AORにおいては、このサジ加減は本当に重要だと思い知らされる)が聴いているこちらを飽きさせない。
その優しく落ち着いた雰囲気は「大人のポップス」と呼ぶに相応しい。この点が”単なる”SSW扱いにならない所以だろう。
サガワの個人的に思う「名盤は30分で終わる」という法則をしっかり守りつつ平均点を軽く超えてくる質の高い作品である。
85点
データ
1980年:アメリカ(Columbia – NJC 36755)
プロデューサー:デヴィッド・ウォルフェルト、ラリー・オステルマン
1. It’s Gonna Be A Long Night
2. The Driver
3. Half Moon
4. The Lady Is A Liar
5. Late Night Confession
6. When The Night Ends
7. You Can’t Get Away With That
8. Goodbye Never Felt This Good
9. Come To Me Tonight
10. Say Goodnight
11. Say Goodnight
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